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イベントレポート

クリエイターの視点で引き出す
”自分らしさ”似顔絵体験

​イベント後記

2025.3.1 (SAT) 13:00-16:00 @KS8神田会議室

Otonatachi(オトナタチ一般社団法人)では、高校生・大学生向けに無料の1on1ミーティングを提供しています。この活動は、多くの支援者の方々によって支えられており、支援の方法はさまざまです。寄付を通じた支援、専門的なスキルを活かす支援、さらには学生と直接関わる支援など、それぞれの関わり方があります。
私たちは、次のオトナタチが自分の価値観を大切に、自分らしい選択を通じてよりよく生きて行くことを願い、これからも様々な方法で高校生・大学生を支援していきます。

今回はそのひとつの取り組みとして、クリエイターの視点から1on1 collegeを利用している学生の似顔絵をデジタルで描いてもらうことで、新たな視点や気づきを得る機会をつくるイベントを開催しました。
クリエイターは、日々の創作活動を通じて自分の価値観を深め、さまざまな角度から物事を捉えながら独自の作品を生み出しています。このプロセスは1on1ミーティングにも通じるものがあると考え、言葉では表しきれない気づきをアートを通じて感じてもらうことで、自己理解を深める新たなきっかけになることを期待し、今回のイベントを企画しました。

対話と創作が交差する時間

イベントには4名のクリエイターと4名の学生が参加。1時間半のセッションで似顔絵を描き、その後全員で感想をシェアしました。

イベント開始前から各ペアごとに会話が盛り上がり、自然とリラックスした雰囲気が生まれていました。いざ制作が始まると、対話はさらに深まり、絵を描くことを軸にしながらも、互いの話を聴くことや自分を言葉で表現することの楽しさがあふれる時間となりました。

クリエイターからは「話が面白くて夢中になり、手が止まってしまう瞬間もあった」という声が聞かれました。それほど、会話が弾み、学生の言葉や表情から多くのインスピレーションを受け取っていたようです。

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お互いに質問を重ねながら相手を理解し、少しずつ絵が形になっていくプロセスはとても印象的でした。対話と創作が交差する時間の中で、クリエイターは学生の特徴を丁寧に捉え、絵に落とし込んでいきます。学生たちも、目の前で自分の姿が描かれていく様子に刺激を受けていました。

学生たちの積極的な姿勢も際立っていました。ただ描いてもらうだけでなく、能動的に話し、自分自身を伝えようとする姿勢が、クリエイターの制作にも影響を与えていたようです。まるで一緒に作品を作り上げているような雰囲気があり、言葉とアートが交わる特別な時間となりました。

「今目の前に彼がいるこの時間が美しいなと思い、それを描こうと思いました」

イベントの中でも特に印象的だったのが、感想シェアの時間。モニターに作品を映しながら、クリエイターと学生が思いや気づきを語り合いました。制作の背景や、描かれた側の感想、それを受けた他の参加者の意見が交わり、言葉が次々と紡がれていく瞬間はとても豊かでした。予定していた30分を超え、1時間近くこの対話の時間は続きました。

全体:「かわい〜!!」

クリエイター:「ありがとうございます。普段から空想を膨らませながら絵を描いています。今回は学生・男性を描くということが新鮮でした。話す中で、彼が自然や花が好きなこと、詩作をすると知って、頭を山に見立て、そこに花が咲いている風景にしました。詩作で想像を膨らませているところをイメージして、頭の周りに雲を漂わせてみたり。好きな色も聞いて、髪を黄色、服を青色にしてみました。」

学生:「似顔絵だけど風景にもなっているのが面白いです。自分も絵を描くから見ていて面白かった。首が窄まっていたり、肩から腕が丸く描かれていたり、表現がかわいい。」

別のクリエイター:「頭を山に見立てる発想はなかったです。花が咲いていたり、鳥がいて、風景に見えるのが素敵ですね。」

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クリエイター:「彼女とたくさん話す中で見えてきた、いろんな魅力的な側面を伝えたいと思い、漫画のキャラ表に見立てて全身像の横にいろんな表情を並べて描いてみました。
手に持っているのはティーボーンステーキの骨で、イタリア留学で食べたエピソードが印象的だったので描いて見ようと思いました。でもただ手に持っているというより、彼女は自分の力で開拓していく、道を切り開いていくイメージがあったので、そのためのツールのように見立てて描いてみました。」

学生:「話した中でも自分の家族の話しが特に印象に残っています。改めて自分が家族の影響を受けていると感じたし、それが絵にも表現されていて面白いです。」

別のクリエイター:「似顔絵を描くというテーマから、漫画のキャラ表に見立てたり、全身を描くという発想がなかったので、面白い視点だなと思いました。」

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クリエイター:「目の前にある美しいものに自分の筆がどれだけ追いつけるか、必死でした。少し線が変わるだけで美しさが損なわれる気がして。最初はキャラクター風に描こうかと思いましたが、彼女に『2割増で描いてください!』と言われたことで方向が定まりました(笑)。彼女の凛とした美しさを出したくて、背景はスプレーでぼかして描きながら、彼女の好きな色を混ぜて表現しました。」

学生:「口が小さいことがコンプレックスだとお話ししたら、『形がかわいいよ』と言ってくださり、可愛く描いてもらえたことが嬉しかったです。イベントに集まった人みんなが相手の話を聞く人だったことも印象的でした。」

 

別のクリエイター:「本当に綺麗なものに出会ったんだなということが、目元の書き込みを見ると伝わってきます。綺麗なものを描こうとする姿勢が絵に現れているように感じました。」

 

別のクリエイター:「髪にハイライトが入り、白い光の粒のような表現が背景に入っていて、まるで少女漫画の中で風が通り過ぎる一瞬を切り取ったような表現で、美しいと思いました。」

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クリエイター:「似顔絵を描くことは相手のコンプレックスを描くことにもなるので、どう書こうかと考えるけれど、それでも諦めず、相手に向き合い、描くことを諦めないことだなと思います。

どう描こうかと前日から考えていたのですが、彼と話し、彼の後ろから光が差しているのを見ていて、今目の前に彼がいるこの時間が美しいなと思い、それを描こうと思いました。」

 

学生:「自分は社会学を学んでいて、質問で人を傷つけてしまうこともある、言葉はナイフにもなるのだと感じていたので、その感覚が彼の絵に対する姿勢と重なりました。

感動したのは、背景の壁の色が最初は緑だったのに、色が重ねられていくことで壁の色に変化していく過程。自分が1on1で話している中で、以前話したことと今話していることが変化していて、その変化を含めて今の自分になっていると思うことがあり、それと絵の過程が重なって見えました。」

 

別のクリエイター:「後ろから光が差し込んで、学生が輝いて見えるのがとても美しいです。この時間、この場所でしか描けない絵だなと思いました。」

「祈りを込めて描きました」

アンケートに寄せられた参加者の声

開催後のアンケートでは、たくさんの素敵な感想をいただきました。

クリエイター、学生それぞれにとってこの時間がどんなものになったのか、一部を抜粋して紹介します。

【​クリエイター】

「絵を描く中でコミュニケーションを取って相互理解していっている瞬間がとても美しいと感じました。」

 

「こちらが学生の話を聞いていると同時に、向こうもこちらの話を聞いていてくれて、描く/描かれるという一方通行のコミュニケーションではなく、相互に関係し合えた事が印象的でした。最後に描いたものを説明する時に、学生がこちらの説明を自然に補足してくれた時は感動しました。」

 

「この時交換したものが、自分を好きになったり支えになったり、新しい価値観の発見のきっかけにしてくれたらいいなという祈りを込めました。」

 

「希望に溢れた目と好奇心いっぱいのフレッシュさがキラキラ素材のスポンジのようだなと思いました。まだ何にでもなれる体力と価値観を持っているのはとても貴重な原動力で、大人になってもそれを持ち続けたいと改めて思いました」

 

「感想シェアの時間がとても良かったです。作品をつくることは準備で、シェアやフィードバックが本番か?とさえ思いました。」

 

「学生の年代との対話はあまり経験が無かったので、事前に少しの心配はありましたが、当日はゆったりと楽しめました。日頃から1on1を通して、対話をしたり自己と向き合う事をされている方達なので、話しやすかったというのもあるのかもしれません。」

 

「描かれる経験もしてみたい、と今回初めて感じました。」

【​学生】

「コミュニケーションが作品へ可視化されるのが面白い。初対面の方と深く理解しようとするこが新しく良かった。」

 

「時間をかけて丁寧に各クリエイターの方に書いていただいた後、それぞれの視点からシェアしあう時間が良かったです。人が人と向き合う、ありそうで滅多にない時間だったな、と思います。」

 

「クリエイターの絵に対する向き合い方を聞けたこと、書いていくプロセスを間近で見られたこと、そして何より作って行くプロセスにモデルを超えて会話を通して関与できたことは類稀な経験でした。」

 

「とっても楽しかったです。一人一人画風が異なり完成過程の違いも楽しめました。」

 

「感想シェアの時間がとても個人的なハイライトでした。クリエイターの人が他の絵を見てどう感じているのかを聞けたことは面白かったです。」

 

「自分自身の良さや強みを絵の中で表現してもらえたこと、絵を「祈り」としてプレゼントしてもらえたことが印象的でした。」

表現による表現支援

帰路で、自宅で、ずっと考えていました。何かを強く感じているのに、何を感じているかわからない。「すごいことに立ち会った」、「すごいことが起きた」。そういう時間、空間でした。ここで紡がれた言葉を、空気を、そのまま保存したいと思いました。何度も感動しました。静かに、深く、ゆっくりと感動しました。新鮮な体験でした。

一方には、“私”を開示し、自身を表現した学生がいました。もう一方には、それを独自の感性で受け、磨かれた技術によって表現したクリエイターがいました。

この「表現による表現支援」とも言える営為の中で、あるクリエイターは祈りを込めました。あるクリエイターは相手のコンプレックスを愛し、美しいものとして丁寧に扱いました。あるクリエイターはアイデアで”私”を表現させ、あるクリエイターはこの瞬間そのものを形にしました。

初対面にも関わらず、そこには興味があり、関心がありました。慈しみがあり、祈りがありました。尊びも、敬いも、憧れすらありました。”愛”のようなものがありました。

言い換えるとそれは、”自己を開示すること”の威力をまざまざと見せつけられたのかもしれません。クリエイターたちがそれを引き出し、受け入れたのは言うまでもありませんが、同時に学生たちの”自己を開示する力”を強く感じました。彼らはまるで、世界はそれを受け入れると知っているような、そんな振る舞いだったのです。

こんな感動もあるのだと、人生の彩りを知ったような、ちがう世界がひらいたような、僕にとってはそんな体験だったのだと思います。

私たちはこれからも、世界の多様な大人たちと出会い、協力して、次の大人たちを支援していきます。決意を新たにした、特別な一日でした。

長谷川亮祐

Otonatachi

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ミリアッシュは、イラストのさらなる可能性を探求するイラスト制作会社です。人間の原始的な「絵に向けた想い」と、その熱で生まれたイラストの「言語を越えていく強さ」を信じています。

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